200年前の軍事マニュアルが目指した「機能的な身体」
現代のトレーニング理論では「柔軟性」や「可動域」の重要性が常識となっています。しかし、その概念の源流をたどると、意外な場所に行き着きます。今から約200年前、1824年のイギリス陸軍の公式訓練マニュアルです。
このマニュアルを作成したヘンリー・トーレンス(Sir Henry Torrens)中将は、当時の軍隊が抱える「身体的な課題」を解決するため、革新的な訓練法を導入しました。その核心こそが「柔軟性(Suppleness)」の獲得でした。
1. 改革者、トーレンス中将の着眼点
トーレンス中将は、ナポレオン戦争などで実戦を経験した軍人です。
彼は、当時のイギリス陸軍が採用していた硬直的な(プロイセン式の)訓練法では、兵士の動きがぎこちなくなり、かえって実戦での機動性が損なわれていると感じていました。
当時の訓練は「直立不動」や「一糸乱れぬ行進」を重視するあまり、兵士の身体を「硬く」してしまっていたの
2. マニュアルが目指した「柔軟性」とは?
1824年に発行された彼の手引書(A new system of drill for the Infantry)の中で、トーレンス中将は訓練の初期段階における明確な目的を記しています。
「新兵を柔軟にし、胸郭を開き、筋肉に自由を与えること」
To make the recruit supple open the chest give freedom to the muscles.
ここで使われている「Supple(柔軟な)」という言葉がポイントです。
これは、現代の我々がイメージする「ストレッチ」や「軟体性」だけを指すのではありません。トーレンス中将が目指したのは、「関節の動きを滑らかにし、身体のぎこちなさを取り除き、機敏に動ける土台を作ること」でした。
硬直した訓練によって固まった身体をリセットし、兵士が本来持つべき「機能的な身体」を取り戻すこと。それが最優先課題だったのです。
3. なぜ「木製クラブ」だったのか?
では、どうやってその「柔軟性」を獲得しようとしたのか。
トーレンス中将は、この目的を達成するための具体的な手段として「木製クラブ(wooden club)」の使用を推奨しました。これが、後にイギリス全土で大流行するインディアンクラブの原型の一つとなります。
クラブ運動が選ばれた理由は明確です。
• 肩、肘、手首の関節を円滑に動かす訓練になる。
• 円運動が、硬直した胸郭を大きく開き(open the chest)、肩甲骨周りの可動性を高める。
まさに「筋肉に自由を与える」ために、当時では画期的で最適な運動だったのようです。
インディアンクラブのルーツは「機能改善」
トーレンス中将の訓練マニュアルは、インディアンクラブ(あるいはその前身)が、単なる筋力トレーニング器具としてではなく、「身体の機能性を改善・回復させる」という明確な目的を持って軍の公式訓練に導入された、最も初期の記録の一つです。
約200年も前から、軍事的な必要性(=機敏に動ける兵士の育成)のために「柔軟性」と「胸郭の可動性」の重要性が見抜かれていたことは、非常に興味深い点ですね。
• 文献名: 『A new system of drill for the Infantry』(または関連する陸軍訓練マニュアル)
• 著者: Henry Torrens (陸軍中将)
ダンデライオンジムネイジアムでは、オープン当初から複雑な動きが可能な肩関節周辺のモビリティや靭帯強化のためにインディアンクラブトレーニングを10分ほど取り入れているクライアントもいますし、近年では指導ができるように指導者コースも実施しています。

